睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群とは (Sleep Apnea Syndrome : SAS)

 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、文字通り睡眠中に呼吸が止まり、それによって日常生活に様々な障害を引き起こす疾患です。 SASの重症度は、AHI(Apnea Hypopnea Index)=無呼吸低呼吸指数)で表し、一晩の睡眠を通して、1時間当たりの無呼吸や、低呼吸(呼吸が浅くなる状態)の頻度をもとに診断していきます。このAHIが5回以上認められ、日中の眠気などの自覚症状がある場合、SASと診断されます。AHIが5~15回が軽症、15~30回が中等症、30回以上が重症とされています。SASの病態の多くは空気の通り道(気道)が狭くなることによって起こる「閉塞型睡眠時無呼吸症候群(以下閉塞型SAS)」です。


閉塞型SASの主な症状と原因


・いびきをかく

 いびきは、睡眠中に空気の通り道(気道)が狭くなり、そこを空気が通る時にのど(咽頭)が振動することによって生じる音です。つまりいびきをかくということは、気道が狭くなっている証拠といえます。いびきをかく方のすべてが閉塞型SASというわけではありませんが、閉塞型SASの患者さんはいびきの常習者と考えられます。

・寝汗をかく、寝相が悪い、何度もトイレに起きる

 閉塞型SASでは、無呼吸の間はいびきは止まり、その後あえぐような激しい呼吸や大きないびきで呼吸が再開するのが特徴です。あえぐような呼吸をすることによって、寝相が悪かったり寝汗をかいたりもします。また、夜中に何度もトイレに起きるといったこともあります。

・倦怠感や頭が重い

 呼吸が止まっている間は、酸欠を起こしているような状態になります。そのため朝の起床時に頭が重いといったことも起こります。休むための睡眠が、無酸素運動をしているのと同じような状況になってしまっていますから、全身の倦怠感や不眠といったことにも陥ることがあります。

・日中の眠気

 SASの患者さんは、無呼吸から呼吸を再開させる度に脳が覚醒状態になるため睡眠が分断してしまいます。この脳の覚醒は、本人に起きたという自覚がありません。しかし脳の覚醒により、深い睡眠が得られなかったり、夢をよく見るといわれるレム睡眠がこまぎれになったりします。7時間ベッドに入っていたとしても、SASによって睡眠が分断されていると、睡眠時間が不足しているのと同じ状態になります。


閉塞型SASがもたらす社会的影響


 SASによる日中の眠気のために、交通事故や災害事故を起こす危険性が高くなります。2003年に、山陽新幹線の運転手が居眠り運転を起こす事例がありました。その後の検査により運転手がSASであることが判明し、SASへの注目があつまるようになりました。また、居眠り運転による交通事故率は、健常者の7倍も高いという報告があります。


なぜ治療が必要なのか?


閉塞型SASの主な自覚的な症状・リスクとして、

起床時の頭痛、頭重・倦怠感、集中力・記憶力の低下、日中の眠気、交通事故、生産性の低下、作業ミスによる労働災害などがあげられます。

また、閉塞型SASの慢性期の合併症・リスクとしては、

高血圧、糖尿病、心不全、心血管障害、夜間突然死、脳梗塞、認知障害などがあげられます。

閉塞型SASの治療目的は、このような症状・合併症の改善・予防です。

ちなみに、SAS患者さんでは、高血圧は健常人の1.5-3倍、心疾患は1.3-2.4倍、脳血管障害は1.6倍リスクが高いといわれています。

 下の図は、閉塞性SAS患者さんにおける致命的な心血管障害(心筋梗塞や脳卒中など)の頻度を研究した報告です。致命的とはすなわち亡くなられたことを意味するので、死亡率と言い換えることができます。赤い線は重症の閉塞型SASだけど未治療の患者さん、緑の線が健常者です。144か月(12年)の経過観察で、未治療の重症閉塞型SAS患者さんの約17%程度の方が心血管障害で亡くなられています。一方、健常者の発症率は3%程度となっています。しかし、閉塞型SASがあってもちゃんと治療をしている患者さん(青い線)では5%程度となっており、きちんと治療することにより重篤な合併症を減らすことができると考えられています。


なぜSASが起こるのか? (一般的な原因)


1.形態的異常:上気道にもともと狭い部分がある

肥満 → 気道のまわりにも肉がつくので気道の内腔が狭くなる。
小下顎・下顎後退 → 口腔内がせまくなる。狭い空間に舌がおさまるため、後方の気道が狭くなる。
扁桃肥大 → 気道におおきな塊があるため狭くなる。

2.機能的異常:睡眠中の上気道の筋肉の緩み

アルコール → 筋肉を緩める作用があるため気道の閉塞を起こしやすくする。
睡眠薬 → ある種の睡眠薬にも筋肉を緩める作用があるため気道の閉塞を起こしやすくするものがある。

以上のような原因が組み合わさって、気道がぺちゃんとつぶれた場合(気道の閉塞)にSASが起きます。上気道が狭くなるけど完全に閉塞せず、わずかにあいている場合はいびきを生じます。



閉塞型SASの検査・診断


SASが疑われる場合には、以下のような診察・検査を行います。

問診:症状や経過を把握します。

視診:あごやのどの形状、鼻の状態などをチェックします。

ファイバー検査:鼻内、咽頭、喉頭など空気の通り道(気道)に狭い部位や疾患がないか観察します。

簡易検査:検査機器を持ち帰っていただき、ご家庭で行う検査です。体に何か所かセンサーを付けていただき、寝ている間の呼吸の状態や血中の酸素の状態などを測定し睡眠呼吸障害の程度を判定します。痛みはありません。閉塞型SAS診断のために必須の重要な検査です。


必要に応じ、以下の検査を追加します。

採血検査:肥満が目立つ場合(メタボリックシンドロームとの関係など)

アレルギー検査:アレルギー性鼻炎による鼻閉がSASに関わっている可能性があると考えられる場合

副鼻腔CT:副鼻腔炎の存在、鼻内の形態異常が目立つ場合

ポリソムノグラフィー(PSG検査):簡易モニターの結果により必要と判断された場合。専門の検査施設等に入院して確定診断を行います。SASの精密検査にあたります。

閉塞型SASの治療


 閉塞型SASの治療は主に簡易検査や精密検査(PSG検査)で診断した重症度によって検討されます。重症度はAHI(無呼吸低呼吸指数)で以下のように分けられています。

AHI 5 -15  /h :  軽症

AHI 15-30  /h :  中等症

AHI >30   /h :  重症

 閉塞型SASではおもに中等症以上の方が積極的な治療の対象になります。それは、先に挙げた合併症の頻度・重症度がSASの重症度とともに高くなるからです。中等症以上の閉塞型SASの治療の第一選択はCPAP療法とされています。

CPAP療法とは (持続陽圧呼吸療法)


 CPAP療法では、CPAP装置からホース、マスクを介して空気を気道へ送り、常に気道内に圧力をかけて空気の通り道が塞がれないようにします。

CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)の効果

  CPAP療法を適切に行うことによって、睡眠中の無呼吸やいびきが減少します。治療を続けることによって、眠気がなくなる、夜間のトイレの回数が減るといったSAS症状の改善が期待されます。さらに重要なのは、睡眠中の体の低酸素状態が改善されることにより、さまざまな合併症の発症を予防したり、症状を改善したりする効果が期待されるということです。CPAP療法は、近視のひとがめがねをかけているのと同じで、治療器を使用していなければ無呼吸はなくならず効果がありません。なるべく毎日、なるべく長い時間つかうとより効果が高くなります。

CPAP装置の医療保険システム

 CPAP療法は、検査を行い一定の基準を満たせば健康保険の適用になります。健康保険が適応となる場合、毎月約5000円(3割負担の場合)の費用負担で治療が可能となっております。その場合には、月1回、必ず外来を受診していただく必要があります。 もちろん、外来受診の際にはCPAP療法の効果の確認を行い、問題点があれば必要な対応を行います。病気や治療状態の変化を見逃さないためにも、必ず月1回の外来受診を行って下さい。



その他の治療法


口腔内装置による治療

 口腔内装置とは、下あごを前方に固定して空気の通り道を開くようにするものです。マウスピースを想像していただくといいと思います。口腔内装置の作成は閉塞型SASと診断したうえで歯科に依頼することとなります。口腔内装置の種類によって健康保険の適用になるものとならないものがあります。この治療は比較的軽症の閉塞型SAS向けの治療とされていますが、中等症・重症の閉塞型SASの補助的な治療としても選択されます。この治療は、肥満度の高い方、高齢者には効果が期待しにくいとされています。なお、口が閉じる状態になるので、口を閉じた状態で鼻呼吸ができないほどはなづまりがある方は、まず先に鼻の治療が必要になります。

手術による治療

1.のどの手術  

 気道閉塞の原因がアデノイド肥大や扁桃肥大などの場合には、手術によって取り除くことがあります。とくに小児の閉塞型SASについて非常に有効なことが多い治療です。  成人の場合はさらにのどの空間を広げるような手術を追加することがあります。しかしながら、現在では手術単独では中等症以上の閉塞型SASを完治させることは難しい場合が多いと考えられており、CPAP療法に次ぐ補助的な治療の位置づけになっています。

2.鼻の手術  

 はながつまってしまうと口呼吸になります。口呼吸になると舌が後方におちこみ、気道が狭くなるためにいびき・無呼吸が出現します。また、CPAPを使用されている場合には、鼻にあてたマスクから空気が気道へと送られるため、鼻がつまってしまうとCPAP療法を継続することが困難になります。はなづまりの原因となる代表的な疾患にはアレルギー性鼻炎、鼻中隔弯曲症、副鼻腔炎などがあります。これらの疾患が薬による治療で改善が難しいような場合には、それぞれに応じた手術を行うことがあります。



生活習慣の改善

 生活習慣の改善のみでSASを治すといったことは難しいですが、他の治療と合わせることによってSASを軽減させることは可能です。また少しでも良い睡眠がとれるように、眠りにつきやすい環境を整えることも必要です。

1. 減量

  肥満が原因でSASになっている場合には効果があります。日本人のSAS患者さんでは約3/4に肥満があるとされています。他の治療法を行っていても治療の一環として行うことが勧められます。10%の体重減少で約30%AHI(無呼吸低呼吸指数)が軽減されるという報告もあります。しかしながら効果がでるまでに時間がかかり、またその維持も重要です。「言うは易し、行うは難し」の治療です。

2.体位・横向きに寝る

 仰向けに寝ると重力によって舌がのどに落ち込みやすくなります(気道が閉塞しやすくなります)。少しでも重力の影響を受けないように、体を横向きにして寝ると症状が軽減する場合もあります。現在、横向きに寝た状態を維持するためのサポート用品がいろいろと市販されています。ただし不確実性が高い方法なので、体位治療はCPAP、口腔内装置、手術などの治療がうまくいかなかったときのオプションとして、あるいは他の治療との併用治療として考えられています。

3.減酒

 「お酒を飲んだ夜は大きないびきをかいている」という指摘を受けた方は少なくないと思います。これはアルコールによって筋肉の緊張が緩み、舌がのどに落ち込みやすくなり気道が狭くなるためです。寝つきがよくなることもありますが、アルコールには睡眠が浅くなる作用があり、夜中に目が覚めてしまうといったことが起きやすくなります。



他院にCPAPで通院されている方

 当クリニックの近隣にお住まいで遠方の病院でCPAP管理をされている方、また現在他院でCPAP通院をされていて当院でのCPAP管理をご希望の方は、当院への転院(CPAP管理医院の変更)が可能です。  当院では各社のCPAP機器を取り扱っております。当院でCPAP管理をご希望の患者様は、一度当院にご連絡下さい(取扱いのない機器についてもご相談させていただきます)。CPAP管理病院移動(CPAP移管)の方法についてご説明させて頂きます。